ショートエッセイ いきもの語り

年老いた猫が寝たきりになり、見送りました。3年間このブログを開くことを躊躇っていましたが、コロナ禍で感じ続ける生きていることの奇跡と感謝をあらためて綴ってみようと思います。

2022-01-01から1年間の記事一覧

一緒に

お年寄りのご夫妻が手を繋いで 黙って電車が来るのを待っていました。 ずっと以前ひとり旅をしていた時、奈良県のある駅で、向かいのホームに見かけた光景です。 当時はそんな様子が珍しく、微笑ましく心に残っています。(今ではたまにいらっしゃいますよね…

晩秋こそ

木の葉が光を透す季節。 舞い落ちた枯葉を一枚一枚かき分けて頭を出すキノコ。 剥き出しになった枝の間から鳴き声を届けてくれる小鳥たち。 都会にぽつんと残された雑木林では、秋そしてどんどん深まっていく冬こそ、地上に生きているモノがたくさんあるのだ…

主人を待つ薔薇

私たちが手入れをしている住宅街の小さな森の中でも なかなか足を踏み入れない急斜面があります。 冬の中にこっそり隠れている生き物を探しに急斜面を上ると、周囲の景色に似合わないピンク色の薔薇がたった一輪咲いていました。 聞けば、一輪だけが細く伸び…

ど根性バタフライ

葉が落ちると、隠れていたモノが見えてくるので、住宅街にある100×300mほどの小さな「森」で宝探しが始まります。 と言っても、宝はなかなか現れず、 去年はメジロやカラスの古巣、カマキリのたまごぐらい。 でも、月4回しか入れない場所なので、毎回なんと…

人生を変える人

つい先日、日比谷の大銀杏の下で、ひとまわりほど年上のある女性に会ってきました。 どうやら人にはそれぞれ自分の生き方を変えた人が幾人かいるようで、私にとって彼女はそんなひとりです。そしてその縁にも不思議なものを感じます。 かつて、その人が自ら…

種子という名の生命劇場

この時期は、 虫の音も小さくなり、鳥の声は聞こえどもその姿は葉に隠れていて、 足下でかさかさと鳴る落ち葉と 光を透過し始めた葉の向こうから届く木漏れ日くらいしか楽しみがなく、 森に行くのをやめようかな〜 なんてちょっと思ったりしてしまいます。 …

虫の幸せを思う

擬態、ということが多くの虫たちに仕組まれています。 ここまでがんばっている擬態にはなかなかお目にかかれませんが。 アケビコノハという名のガの一種。 全身枯葉に似た姿で、枯葉にじっとしがみついていました。陽が傾きはじめた頃だったので、もう眠りに…

ダリアの顔

数年前の母の日に、ほんの数百円で買ったダリアの苗がたくさん花をつけています。 母が大切に育ててくれているからでしょう。 小さな路地沿いにこれでもかと咲き誇っているので、 数本を切って部屋に飾ることにしました。 どれを部屋に連れていこうかとじっ…

心地いいヒョウ

少し帰宅が遅くなった。 人気の少ない住宅街のメイン通りを10分ほど歩き、もう直ぐ家が見えて来る、という駅から2つ目の信号のある交差点に、4、5人の人集りが見えた。 交通事故でも? 私も何か手伝うべきだろうか。きっと無視もできない。と思ううちに、現…

厳しい銭湯

地方ロケの1日目が終了。今夜はバラ飯(※)の自由行動。 思い思いに街に繰り出していく中、もうひとりの女性スタッフと、銭湯にでも行こうかということになった。 そうだね、旅の疲れもあるし、この先もまだロケは続くし。広いお風呂にゆっくり入ろうか。で…

ふたご蝶

急に寒くなったので 我が家のレモンの木に取り残されていた幼虫たちを緊急保護。 翌日には2匹ほぼ同時に蛹化活動へ突入。 同じ場所を選んでまずは無事、さなぎオブジェとなりました。 兄弟(姉妹)なのでしょうか。 蛹化場所を探しに探した挙句、 同じタイ…

一年草の愛

一年草と聞いていました。 昨年、友人との待ち合わせの時間つぶしにぶらりと入った植木屋で衝動買いしたオジギソウです。 ほんとうに一年でさよならなのかと、冬枯れしても、春になって芽が出なくても、鉢を植え替えることなく放置して見ていました。 景色が…

土のなか

雨が降ると「どうでもいいこと」が気になります。 サワガニは今頃のびのびと、人気のない「森」を闊歩しているだろうか。 この雨が止んだら、トカゲは身を潜めていた場所から這い出して、また日向ぼっこをするだろうか。 そんな姿を見たいものだ。と。 そう…

踊りませんか?

2か月ぶりに森に入ると、あちこちからshall we dance?の声が聞こえてきました。つくつく男子も、つくつく女子に僕と踊りませんか?と手を差し出しています。じっと立ち止まってそんな様子を撮る私には小さな虫たちが多数かゆそうな音でshall we dance?と耳元…

青い星

子どもの頃、「青い鳥」という物語の何に惹かれたのかと考えています。 幸せの青い鳥はすでに手の中にあった。 という結末は、様々な経験を経てこそ理解できるのではないか。そう思うからです。 でも、青い鳥というモチーフは、子ども心に沁みていました。「…

キンランとガビチョウ

レッドリストに載っているキンランは、 他の樹木と菌類を共有しないと生きていけない花なのだそうです。 そんな話を聞いてから、根や菌で会話をする植物の世界が俄然豊かに思えるようになりました。 盗掘も多いので、この花をどこで見かけたかを、語ることが…

鉢の中で

サクラの号令で、待っていましたとばかりに足下でも一斉に花が咲きました。 ヒトリシズカという名前の花も、ひっそり咲いています。 春を待っていたのは私も同じです。 今年は特別な理由がありました。 ベランダでバラを3鉢育てているのですが、そのうち1…

目覚めた時に聞こえるのは

何年前のことでしょうか。 目覚めたら小鳥の声が真っ先に聞こえる、 そんなところに住めるのが幸せ。 と、自分なりの幸せの定義をひとつ決めたことがあります。 あ、申し訳ないけれど、この場合「小鳥」にカラスは含みません。 今朝はスズメが仲間を呼んでい…

ぷっくりヒヨドリ

先に居たのは、私の方です。 3m後ろの枝にとまったのは、あなたの選択です。 左後ろに気配がするので振り返ると、ヒヨドリがぷっくり膨らんでぼ〜っとしていました。 カメラを向けても気づかないのか、ぼんやりしているので、思う存分観察させていただきまし…

鳥の巣 Bird's Nest

鳥の巣が落ちていました。 こぶしぐらいの大きさの、小さくて、軽そうな巣です。 強い北風が樹上から吹き飛ばしたのではないかということです。 メジロの巣、なのだそうです。 梅の花が少ずつほころび始めるこの時期、活発に動いているメジロ。何をしている…

水色ダウンの少年

電車の扉の端に立っていると、 きれいな水色のダウンを着た中学生ぐらいの男の子が、同じ扉の反対側にやって来ました。 顔の真っ白な、線の細い少年です。 この時期、半ば向かい合わせになるのはやや気になるので、見るとはなしに、なんとなく様子を伺ってい…

小鳥で世界を見る

鳥がいる。というだけではダメなんです。 なぜそこにいるか考えたことがありますか? と話している人がいました。 今年、冬鳥の渡りが遅い。というのは、遅いのではなく、どうやら個体数が少ないのだそうです。 東京の夏が長かったからだけではなくて、実は…