ショートエッセイ いきもの語り

年老いた猫が寝たきりになり、見送りました。3年間このブログを開くことを躊躇っていましたが、コロナ禍で感じ続ける生きていることの奇跡と感謝をあらためて綴ってみようと思います。

主人を待つ薔薇


私たちが手入れをしている住宅街の小さな森の中でも

なかなか足を踏み入れない急斜面があります。

冬の中にこっそり隠れている生き物を探しに急斜面を上ると、周囲の景色に似合わないピンク色の薔薇がたった一輪咲いていました。

聞けば、一輪だけが細く伸びた枝の先に咲くのだそうです。それも、何年も同じように。

花数を増やすでもなければ、朽ちることもなく、いつもたった一輪。

自生の花ではないので、昔々誰かが植えたのでしょう。でも

そんな急斜面の暗い場所にいったい誰が?そしてなぜ、いつも必ず一輪なのでしょう。

もしかしたら、昔々そこに植えてくれたご主人をずっと待っているのかもしれません。

私はここで、今日も変わらずあなたの帰りを待っています。

そう語っているように思えます。

だから私たちは、そっとそのまま見守っているのです。無理に日当たりのいい場所に植え替えて増やそうとせず。

もしいつか、その薔薇の姿が見えなくなることがあれば、疲れてしまったのだと思わずに、ご主人と再会して安堵したのだと思うことにします。その花の願いが叶ったのだと思うことに。

一輪だけ開く薔薇