ショートエッセイ いきもの語り

年老いた猫が寝たきりになり、見送りました。3年間このブログを開くことを躊躇っていましたが、コロナ禍で感じ続ける生きていることの奇跡と感謝をあらためて綴ってみようと思います。

人生を変える人

つい先日、日比谷の大銀杏の下で、ひとまわりほど年上のある女性に会ってきました。

どうやら人にはそれぞれ自分の生き方を変えた人が幾人かいるようで、私にとって彼女はそんなひとりです。そしてその縁にも不思議なものを感じます。

かつて、その人が自らの体験を書いた書籍がドラマになり、それを見たことが前職を辞める決定打になりました。(理由はともあれ。)

それから15年後、貴女にカメラを向ける番組を作らせてくれと会いにいくことになり(自分にとって強烈すぎる存在なのでその人を題材にはしたくなかったんですが、なぜか不思議にその人に行き着いてしまったので、ある意味仕方なく。笑)、

さらに15年以上経っての今、です。銀杏の木の下で、今抱えているたくさんの思いを共有してくれました。

実は私がまだランドセルを背負っていた頃、その人とは薄い壁1枚隔てたところに住んでいました。もちろん当時はそんなことは全く知らなかったのですが。九州から東京に出てきた20代だった彼女の住まいの隣に、九州から出て関西や関東を転々としていた我が家が移り住んだ、ということです。(彼女がそこを去った直後に私たちが住まったので、正確にはニアミスだったようですが。)

目の前の大銀杏は、明治時代に道路拡張で処分されそうになったところを移植されたもの(当時からすでに大銀杏だったらしく)。近づいて二人でしばし見上げていました。その佇まいには圧倒されるものがあります。

すると足下に落ちている黄色い葉を見て、彼女が言いました。

「この葉、他のイチョウとちょっと違いませんか?」

見れば小ぶりで真ん中のくぼみがないものばかりが落ちていました。

大きな大きな木がほかより小さな葉を無数に抱えていることに気づく人。そんな人に人生を変えられたのだとしたら、本望だ。そんな気がしました。

他愛もない話ですが。