ショートエッセイ いきもの語り

年老いた猫が寝たきりになり、見送りました。3年間このブログを開くことを躊躇っていましたが、コロナ禍で感じ続ける生きていることの奇跡と感謝をあらためて綴ってみようと思います。

水色ダウンの少年

電車の扉の端に立っていると、
きれいな水色のダウンを着た中学生ぐらいの男の子が、同じ扉の反対側にやって来ました。
顔の真っ白な、線の細い少年です。
 
この時期、半ば向かい合わせになるのはやや気になるので、見るとはなしに、なんとなく様子を伺っていました。
今時ポケットフォンでしょうか?防犯用の機器でしょうか?そんなものを首からぶら下げています。
きっとご両親は大切に育てているのでしょう。
 
開かない…
 
と小さく独り言を言うので、見てみたら、手元のペットボトル飲料の蓋を捻っています。
タオル地のハンカチをポケットから出して蓋に巻きます。
そうそう、滑り止めね。
と、応援気分で視線を送ると、少年と目が合いました。
 
ん?これは、助けを求められている?
いやいや、私より少年の方が力があるんじゃないか?
と、考えながら、持っているはずのない輪ゴムをカバンの中に探し始めました。
輪ゴムさえあれば、きっと助けてあげられるに違いないのに。
 
開かない…
 
途方に暮れた少年は、こんどはペットボトルを振り始めました。
見ると炭酸飲料です。
だめだよこんな所で炭酸振っちゃ。
ちょっとドキドキしながら
さんざん振られたペットボトルの蓋が車内で開いてしまう光景を想像しました。
まあ、いいか、こちらは撥水加工のコートを着てるし。
 
数駅を経て、結局蓋を開けられないまま、少年は下車しました。
その時、初めて気づきました。
少年の背負っていたリュックに、赤いハートマークの札がぶら下がっていたのを。
そうだったのか、お手伝いが必要な子だったんだ。
蓋を開けてあげるのが少年に対して適切なお手伝いになったのかわかりませんが、
開けようとしていた時、私を見ていたのは、やはり小さなSOSだったのかもしれません。
 
役に立たないおばさんだったな。
駅のエスカレーターを上っていく少年を見送って、申し訳なさを感じてしまいました。