ショートエッセイ いきもの語り

年老いた猫が寝たきりになり、見送りました。3年間このブログを開くことを躊躇っていましたが、コロナ禍で感じ続ける生きていることの奇跡と感謝をあらためて綴ってみようと思います。

飛び立つ覚悟

部屋で羽化したセミが羽のバランスがよくない、飛べないセミだったので、
どこかの木に帰そうと、セミを連れて歩き回りました。
これは?という木に放っても、どうもあまり乗り気ではないようです。
近所を一周して戻ると、すぐ近くにやたら抜け殻が多くついている木があったので、そこにとまらせると、ずんずんのぼっていきました。
羽の形を見ればわかるはずなので、
翌日、何度か様子を見に行きましたが、姿はありませんでした。
夜になってその木を見に行くと、ふもとの草むらでガサゴソ音がします。羽化しようとしているセミが出てきたようです。
どうも2か所から音がするようなのですが、すぐ近くから聞こえていた音がピタリとやんでしまいました。
おかしいなと思いながらも自宅に戻って玄関の扉を閉めると、
ぽろっと羽化前のセミが床に落ちました。
私の服についていたようです。
戻しに行こうかと思いましたが、ご縁なので、やっぱりそのコも部屋で羽化してもらうことにしました。
3匹目のセミは、おそらくミンミンゼミ。
羽が透明、胴体が緑色で生まれてきました。
不思議なもので、以前羽化した2匹は翌日すぐに手に乗ってきたのですが、こんどは姿さえ見せてくれません。
ようやく家電の後ろに見つけて、引っ張り出しました。
ベランダに出すと、初めて感じる外の風がこわいのでしょうか、
しばらく私の手にしがみついて、それから意を決したように勢いよく飛んで行きました。
なついてくれないコでしたが、最後の瞬間、決意する直前の思いを感じることができたからか、また忘れ難い存在になりました。

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みどりご