ショートエッセイ いきもの語り

年老いた猫が寝たきりになり、見送りました。3年間このブログを開くことを躊躇っていましたが、コロナ禍で感じ続ける生きていることの奇跡と感謝をあらためて綴ってみようと思います。

一緒に

お年寄りのご夫妻が手を繋いで
黙って電車が来るのを待っていました。
ずっと以前ひとり旅をしていた時、奈良県のある駅で、向かいのホームに見かけた光景です。
当時はそんな様子が珍しく、微笑ましく心に残っています。(今ではたまにいらっしゃいますよね。)
 
私は電車に乗る時、たいがい車両の端の扉横に立っています。
その辺りは懐深い構造になっていることがあり、体をすっぽりはめられ、乗り降りする人の邪魔になりにくいので。
 
一昨日も各駅停車の定位置に立っていると、
モコモコな冬服に身を包み手を繋いだお年寄り夫妻が乗ってきました。
手を繋ぐというより、女性を男性が支える格好です。もしかしたら、認知に問題ありかなと少し思いました。
ご夫妻は、私が背中を預けているすぐ後ろに座りました。なので何かあったら手助けできるかと聞き耳を立てました。
 
その駅は、電車の待ち合わせがある駅でほんの少し停車時間が長く、静かな時がちょっと続いていたので、おふたりの小さな声がはっきり聞こえました。
妻さんがゆっくり言います。
「ここでは遠くに行く電車(おそらく急行のこと)に乗れるのよねぇ」
夫さん「遠く?」
妻「遠くに行く電車」
夫「ああ、そうだね」
妻「…行きたいねぇ、どこか遠くへ」
夫「遠くったって、今さらどこへいくんだよ(少しの温かい笑い)」
会話は終わり、電車も動き出しました。
お二人の顔は見えませんでしたが、言葉の柔らかさが背中に響いていました。
そして、隠れていた言葉を想像して、涙のひとつぶでもこぼしてしまいそうになりました。
一緒に。
一緒に旅、したいね。
 
ハッピークリスマス。
温かな時間に包まれますように。
 

天然のオーナメント